Toru Yoshigaki
フラワーアーティスト。(社)JFTD全国フラワーデザインコンペティション、ジャパンカップ優勝・内閣総理大臣賞受賞 。
IGA緑の博覧会(ドイツシュッツガルト)日本ブース担当。2007 年宮崎移住。日々、波に乗る楽しみを求めて横浜から宮崎市青島へ。波乗りと仕事のバランスを取りながらスローライフを送る。
Q.サーフィンを始めたきっかけを教えて下さい。
1960年後半から70年代、ロングボードからショートボードへ移行する転換期、当時、夜な夜なベンチャーズの音楽とかっこいいサーフムービーがテレビから流れていた時代。
それを見ていた流行に敏感な友達が「サーフィンって知ってるかよ?」「イメージはわかるよ、波に乗るんでしょ」って、それがきっかけで千葉へ行った。それが最初、千葉の南、ヘバラポイントというところ。サーフィンがどういうものか見に行った。友達はすでに注文していたサーフボードを持ってて、やるつもりのない俺もやるはめになった。
腹ぐらいのサイズ、めちゃくちゃ巻かれて、海藻にもぐるぐる巻きになって「俺死ぬんじゃないか?」って思いながらサーフィンを始めました。
Q.それから?
すぐはまる。これって乗れたら絶対おもしろい!お金ないけど、サーフボードないと始まらないから、全然わからないけど、友達の勧めでマリブのサーフボードを買った。
お金がないので、親。家に借金して買った。白と黄色い板、それがファーストボード。それからヘバラに通って、すぐ乗れるようになった。セブンぐらいの今でいうファンボード。ロングのように浮力のあるバランスのいい板だから乗れちゃって、やってたらおもしろくなちゃって、ある時、違うところのサーフポイントに行った。そしたら、サーフィンの流れがロングではなく、ショートボードになっていた。サーフボード購入した時期がちょうど、転換期だった。友達もその転換期を知らなかった。
Q.ジェリー・ロペスに憧れたのですか?
ジェリー・ロペスもそうだけど、だれだったかな?俺はサーファーがかっこいい、っていうのではなく、湘南に行ったときに、湘南のサーファーが持っている、サーフボードとかそういうのがとってもかっこよかった。
パイオニアモス、ウェットスーツは湘南茅ケ崎付近のヴィクトリー。ヴィクトリーのウェットスーツは派手でかっこいいな!って買えないけど、ショートボードに憧れて、どこで買ったか覚えてないけどどこかで買った。多分、ゴッデスかなんか・・・そのころ、ゴッデスが茅ケ崎の西浜にあった。今は引っ越ししたけど、ゴッデスの板を手に入れて、新しい板を買ったくせに、その中古の板の方が、かっこいいと思ってそっちを使う。新しいのは10回も使わずに売ってしまった。
中古のショートボードは買ったはいいけど、乗れなくて、乗れない時期を相当過ごした。半年以上、1年近く、ほんとに乗れなかった。以前の板は大きかったから簡単だったんだったな、って気づいた。それからだんだん乗れるようになって、テクニックじゃなくて、波に乗ってるのが楽しかった。
波に乗るというか、好きだったのは、波乗りよりも、波があるのか情報がない中で夜な夜な海に行って、ビーチで寝ちゃって、起きたら「あ、波ないや」って、それで波があったときがすごく嬉しいし、そういうのが楽しかった。
徐々にそういうのが、自分の生活のスタイルとめちゃくちゃ関わってきた。そのころ、大学が海と家の中間にあって、「学校に行ってきます!」って、学校を通過してそのまま海に行っちゃう流れができた。ほとんどサーフィンが目的で学校に行く、誰を誘うわけじゃないけど、なんとなく海でのんびりと過ごしてるのが好きで、あんまり波に乗れないくせに大好きだった。
Q.大好きだった?
今のこういう生活、海の時間、波のある時間、その流れに乗っかって生活するということがすごく気に入っている。
かっこよく波乗りをする、波に乗った瞬間は楽しいんだけど、それよりもむしろ、波乗りに行く、そこで過ごす、アフターで疲れて、何か飲んだり、当時、海から上がるとコカ・コーラのホームサイズと酢イカを買って食べながら、コーラを飲んで・・・ぜんぜん関係ない音楽の話をしたりだとか、そんなのが楽しかった。サーフィンは好きだけど、それだけじゃない。
自然の中での楽しみや、海とのふれあいとか、そういうのって自分でも幸せになれるじゃない。
Q.幸せになれる?
自然との一体感、自然とのリズムを波のリズムになんとなく調和させているのかな。
そうするとなんか気持ちが優しくなれるっていうか、それが立場が代わって、真剣勝負になれば、顔付もかわると思うけど、自然の中で一体になれる、遊ばせてもらってるということが、気持ち的に楽になる、だからこそ幸せになれるし、人の顔見ても嬉しくなっちゃうし、それで人に優しくすることって、自分に跳ね返ってくるし、なんとなく笑っちゃうよね。
人のライディング見ても、波のリズムをうまく掴んで、調和させてもらったってことを感じるから、嬉しくなる。やっぱり笑顔が作れる、同じ環境で、同じところにいる、初めて会った人でもなんとなく、そういうキーワードでいい関係が築けるんじゃないかなと思えるし。
Q.日々の生活はどんなサイクルですか?
普通サーファーは潮回りを気にして狙うけど、まず海に散歩に行く。
波をチェックするのではなく、ただ散歩する。朝、気持ちがいいな、と海で感じる。散歩して、自分のスタイルに合う波がどんな感じかチェックして、そんなじゃないなら仕事する、波良かったら仕事やめる。
Q.なぜ青島に移住してきたのですか?
サーフィンを中心とした生活を送れる場所がここしかなかった。
一般的にいう働き盛りの生活が落ち着いたら、「自分の好きな生活」をしたかった。それができるのが宮崎。物価が安い、自然がある、人が混んでない、おいしいものがある、道具が使える。関東では道具を使えない。道具を使えることが、やりたい生活。道具と一緒に生活をするわけじゃないけど、道具を使いたかった。「やりたいこと=道具を使った生活」。道具は重要。道具は進化する。
Q.移住に際しご家族の反応は?
決断後、報告した。いいんじゃない、と肯定的な反応だった。タイミングは子供たちが就職できた段階で、自分も自立したかった。ははは。
車もバイクも、そういう好きなものの中にいたい。それでサーフィンの波乗りのリズムで生活したかった。ここに住めばわかるけど、ここしかない、ってみんな感じると思う。ここにはカルチャーがあったし、自然があって、人がいい。ここしかないもの、ここに住めばわかる、もの。なんだろうな・・・ここにある・・・なんだろうな・・コミュニティがある。そうなんだけど、なんて言えばいいのかな、と思って。こんなとこ絶対ないと思う。ここじゃなきゃ味わえない。スペースの狭さ、世間の狭さ、狭い中に凝縮してる、ずっと子供でいられる。
この間、スケボー買っちゃったんだけど、自転車ダメになってきたから2千円のスケボーで海に行こうと思って。前持ってたスケボーは、ふにゃふにゃだったから、今度のは堅いけど、ちっちゃいからどうかな、と思って。かわいいよ、ブルーと黄色。まずは2~3回こけてから。あんなちっちゃいの転ぶよ!ずっと子供でいられる、それを実践できる。
ずっと子供でいられるを実践できる。ばかみたいだけど。みんな理解がある、ってことなんだよね。みんながそれをわかってる。
スケボーに理解ない人でも、楽器には理解があったりして、「俺この曲嫌い」って言える。そういうことだよね。ってことは、みんな好き勝手なことができて、それがうまくまとまってるよね。
拾ったTシャツ着て、自転車乗ってて、いいねって言われる環境。自分と同じ感覚を持った人が自然と集まってくる。だからこそ、居心地がいいいっていうか・・・なかなかないよね、ここでオヤジがスケボー練習して、それを通勤に使うなんていう。練習できる場所。できる人がやるなら話は別。
Q.”オヤジがスケボー練習している”様子を見て、自分もやろうって思う人が増えてくるんですよね。
それを自然に捉えちゃう、っていうね。
Q.それが、ここに住めばわかるけど、ここしかない、という感覚ですか?
でもそれだけじゃないと思うんだよね。
Q.それだけじゃない?
それができるのは、青島にビーチがあって、そこに海に入る生活のサイクルがあって・・・。
ある意味、サーファーが築いた街づくりだと思うんだよね、ある意味。サーファーっていうか、海好きっていうか、SEAMANっていうか、海好きが集まって築いた街だからこそいつも子供でいられるってことだと思う。
例えば、玄関の前で「おい、いるー?遊ばない?」ってさオヤジが言える?ちっちゃい頃「だれだれさーん、遊びましょう」っていうのと一緒でさ、本当にそれをやってるんだもんね、ここで。
Q.私もその感覚はわかります。小さい頃にそれをやってたよりも、もっと環境がいいんですよね。
そう、もっといい!やりやすい!音楽仲間なんか特にそうだよね、ギター持ってると、「お!ギターやんの?俺もやる?」ってすぐ来る、「どこでやんのー?」って
Q.ご自身にとってサーフィンとは何でしょうか?
サーフィンは・・・例えば、車で道路走るのがロングボードと一緒じゃない、ショートボードで走るとしたらバイクが同じじゃん。
ロングボードでクルージングするの、景色いいところを気持ちよく走るっていうさ、その道路が不安定な道路が波であったり、だからそういう乗り物だよね。たまにオフロードでジャンプできないけど、ジャンプしてみたいな、とか、自然にできたトンネル通りたいなとか、あるかもしれないけど、ずっと砂浜で続く、いきなりできた道っておもしろいな、って海。
道具を使うと、より自然と遊べる
毎日の生活が楽しいっていうこと。
Q.道具を使った生活をしたいうちの一つがサーフィンなのですね
うん!
でも海で遊ぶのも、カヌーもそうだし、カヌーで道なき道を走るってのも楽しいし、ある程度の道がちょっとだけ決められた波に乗るのもおもしろいし。
Q.ご自身にとって波乗りとは何でしょうか?
散歩みたいなものなんだよね。決められた道じゃなく、散歩でもいろんなとこ行くと楽しいから、毎日の、朝散歩に行く、その散歩の延長で波に乗るみたいな、そんなところもあるかもしれないし・・・。
最初の頃に戻って、サーフィンを海で遊ぶっていう、生活にするっていうか、過ごすっていうことが楽しいわけで、その延長でずっとサーフィンがあって、そういうことを理解できる人と話が合うから、どんどん友達が増えるし、なんだろうな、うまく言えないんだよな、ほんとにうまくいえないんだけど、でもそこってすごく重要なキーになってくるから・・・「サーフィンとは」っていうとなんか難しくなってきちゃうけど・・・。
気付かせてくれたのがサーフィンなんだよね、むしろね。仕事に追われてる今までの人生と、こんな見えないけど、見えない道だけど、そういう何かがあるよ、っていうのを気付かせてくれたのがサーフィンだと思う。だからこそサーフィンに夢中で、サーフィンだけじゃなく、なんか・・・そうかもしれない・・・。
未知のものを、なんとなくイメージでわかるんだよね、自然の中で海と一体になって、リズムに合わせて生活するってのはわかるんだけど、でもそれって見えないものじゃない?でもその先に何があるかわからないからおもしろいのかもしれないし、だからこそ俺、道具が欲しかったするのかもわからないし・・・。
Q.こうやってお話伺いましたが、多分おしゃってる以上に”こういうこと”なんですね。
そうそう、それが言えないんだよ、でもそれってこれって言えなくて、まだ未知のものなんだよね、未知なんだけど、わかってるんだけど。
Q.わかってるけど未知?じゃ、未知じゃない!知!既知!!ですよ、すでに知ってる。
あはははは。
Notes
今回のインタビューを終え、web担当OSM氏とミーティング中、トールさんから「顔写真 選んでね、少しいい男でいさせておくれ。」とのメッセージが・・・。トールさんは十分かっこ良くて、いい男だと思う!いつ撮っても絵になるし、これ以上どれを選んだらいいのか、正直なところ困る。
このインタビューを通して感じたことは、お話を伺う前も後も、トールさんの印象が変わらないということだ。今回初めてトールさんの海との関わり方や、波乗りのベースとなっている部分を伺ったのだが、話が進むにつれやっぱりそんな感じだなんだ!と手に取るように伝わってきた。
語らずとも、日頃からそういう雰囲気をまとっているのだ、と改めて思う。波チェックで会う時も、近所のスーパーで会う時も、海のサイクルと共に生活している喜びに溢れている、そういうことだ。だから、いつ撮っても絵になる。
ここ青島の、海での付き合いは幅広い年齢層で構成されているが、トールさんは年齢を感じさせない可愛らしさと、程良いいい加減さ、圧迫感のない人柄で、いつも楽しそうに笑っている。以前、「海での付き合いは浅くて深いんだぜ」というような内容のトールさん的名言に私は非常に感動し、海での座右の銘としたのだが、その後、「海での付き合いは浅くて広い?」「深くて狭い?」なんだっけ?となり、何度かトールさんに尋ねてみるも、当のご本人も「なんだっけ?忘れちゃった」という始末。だが、それでいいのだろう、と思う。
「波乗りは楽しんだもん勝ちだよ」と私に言うが、まだ4年目の私にはなかなか楽しむ余裕がない。私も「楽しんだもん勝ち」と言えるようになりたいものだ。